物流崩壊の真因は、“思考の停止”である。
今日、スマートフォンでボタンを押せば、翌日には荷物が届く。私たちは、いつの間にかこの異常な利便性を「当たり前」と呼ぶようになった。しかし、その“当たり前”は、現場の長時間労働と、誰かの無理と、構造の歪みの上に成立していた。そして今、その歪みが一気に噴き出そうとしている。
2024年問題。世の中ではそう呼ばれている。だが、私はこれは単なる「始まり」に過ぎないと思っている。本当に恐ろしいのは、トラックドライバー不足ではない。物流費高騰でもない。2026年の法改正でもない。本当に恐ろしいのは、日本企業そのものが、“物流を軽視したまま成長してきた”という事実である。
つまりこれは、物流問題ではない。日本型経営そのものの限界が、物流という“血流”に噴き出しているのである。
「物流には誰かが何とかしてくれる」という幻想がつきまとう
多くの企業は言う。「ドライバーが足りない」「採用できない」「物流会社が対応できない」。しかし、本当にそうだろうか。私は、これは“人手不足”ではなく、“マネジメント不足”だと思っている。なぜなら、日本企業は長年、物流を「外注先」「下請け」「コスト削減対象」「現場任せの機能」として扱ってきたからである。
営業は売る。購買は値切る。現場は無理をする。そして最後は、物流会社が何とかする。この構造が、ずっと放置されてきた。つまり日本企業の多くは、「物流は誰かが何とかしてくれる」という幻想の上に経営してきたのである。
だから今になって、物流危機が起きているのではない。本当は、ずっと前から壊れていた。ただ、現場が無理をして支えていただけなのだ。
ここ30年、日本の物流構造は大きく変わった。荷物は小口化し、配送頻度は増え、積載効率は低下した。かつては一括配送だったものが、今では「明日届けろ」「午前中に届けろ」「再配達しろ」という世界になった。つまり物流は“効率化”したのではない。細分化されたのである。その結果、トラックは空気を運び始めた。
しかも企業は、その歪んだ構造を見直す前に、DX、AI、自動配車、データ分析へ逃げ込もうとしている。しかし、ここで考えなければならない。穴の空いたザルを、高速回転させて何になるのか。構造が漏れているのに、処理速度だけを上げても意味がない。むしろ、ムダを高速で拡散するだけである。
私は、DXそのものを否定しているわけではない。問題は、「構造を見ないDX」である。現場を見ない。積載率を見ない。荷待ちを見ない。ドライバーの心理を見ない。にもかかわらず、データだけ見て最適化しようとする。これは改善ではない。“現実逃避の自動化”である。
CLO時代に問われるのは、「物流責任」を誰が引き受けるのか
2024年問題は、労働時間規制の話だった。しかし、2026年から始まるものは本質が違う。物流効率化法の改正によって、一定規模以上の企業には、物流統括管理者(CLO)、中長期計画、積載率向上、荷待ち改善、定期報告などが求められる。
ここで重要なのは、制度そのものではない。本当に重要なのは、「物流責任」が、ついに荷主企業へ返され始めたという点である。今まで日本企業は、「運送会社が悪い」「ドライバー不足が悪い」「物流会社の努力不足」という形で責任を外へ押し出してきた。しかし、これからは違う。営業の都合、販売の論理、過剰サービス、翌日配送、再配達、これらすべてが、“経営責任”として問われ始める。
つまりCLOとは、単なる肩書ではない。本来、CLOとは、「営業と物流の矛盾を、経営として引き受ける役割」なのである。ここを間違えると、「名ばかりCLO」が大量発生する。すると何が起きるか。現場はさらに疲弊する。会議だけ増える。報告資料だけ増える。そして構造は、何も変わらない。
今、物流業界では「リレー輸送」が推奨されている。長距離輸送を複数人で分担し、労働時間を抑える考え方だ。理屈としては正しい。しかし、現場はそんなに単純ではない。物流は、数字だけでは動かない。人間が動かしている。そこには、緊張、習慣、誇り、恐怖、孤独が存在している。
大型トラックは、場合によっては凶器になる。だからドライバーは、常に神経を削っている。睡魔、事故、荷崩れ、天候、渋滞、時間圧力。物流とは、本来、極めて精神負荷の高い仕事なのである。にもかかわらず、経営側は、回転率、効率、稼働率、AI最適化ばかりを見る。その結果、現場から“心”が消えていく。
私はここに、大きな危険を感じている。人間の心を壊した効率化は、長続きしないからである。
物流危機の本質は、「トラック不足」ではなく「思考の停止」である
ここで、もう一つ重要な変化が起きている。それが「共同配送」である。本来、企業は競争する。しかし今、多くの企業が、物流だけは協調し始めている。これは非常に重要な変化である。なぜなら、物流とは本来、社会全体の循環を支える“インフラ”だからである。
つまり、物流を壊すということは、地域を壊すこと、産業を壊すこと、雇用を壊すこと、生活を壊すことにつながる。だから今後は、「自社だけ勝てばいい」という発想では、物流そのものが維持できなくなる。これは単なるコスト問題ではない。社会構造の問題である。
私は、物流危機の本質は、トラック不足ではないと思っている。本質は、「思考の停止」である。昨日の成功体験、過剰サービス、価格競争、現場依存、長時間労働。これらを、“仕方ない”として放置してきた。つまり、構造を変えることから逃げ続けてきたのである。
しかし、もう限界だ。ドライバーは会社を選ぶ側に回った。物流会社も、仕事を選び始めている。そして、現場は静かに疲弊している。にもかかわらず、経営だけが、まだ昨日を見ている。私は、ここに最大の危機があると思っている。
物流を変えるということは、単に配送を改善することではない。営業を変えること。販売を変えること。サービスを変えること。そして、経営そのものを変えることである。つまり物流とは、会社の“血流”なのである。血流が壊れれば、身体は死ぬ。それは企業も同じだ。
私たちは、物流を失うのではない。本当に失おうとしているのは、「社会を循環させる力」そのものなのかもしれない。
翌日配送。送料無料。24時間対応。これらは確かに便利だった。しかし、その裏で、誰かの無理が積み上がっていた。そして今、その無理が限界に達しようとしている。
物流危機とは、トラックの問題ではない。経営の問題である。構造の問題である。そして最後は、「私たちは、本当に昨日の成功モデルを捨てられるのか」という問いなのである。
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そこで今回、セミナー参加者限定で、「CLO構造診断・個別面談」を実施します。
この面談では、
・荷待ち
・積載率
・小口多頻度配送
・営業と物流の矛盾
・属人化
・過剰サービス
・現場依存
などを、単独改善ではなく、「会社全体の構造」として読み解きます。
なお、無理な営業活動は行いません。まずは、「自社が、どこから崩れ始めているのか」を整理するための時間です。
6月19日、少し危険な話をします。でも、本当に危険なのは、「今まで通り」の方なのかもしれません。


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