【連載第1回】100億円企業を目指すならば、ちょっと待った!

コンサルティング

その勇ましい宣言の裏で、御社の「現場」は悲鳴を上げることになります。

最近、物流業界のみならず、行政や金融機関からも盛んに聞こえてくる「目指せ、年商100億円」という言葉。

確かに、この激動の時代を生き残るためには「規模」は力です。しかし、アクセルを強く踏み込むときこそ、ハンドル(現場管理)とブレーキ(安全品質)の点検が不可欠です。

今日は、流行りの「拡大路線」の死角について、あえて苦言を呈したいと思います。


こんにちは。

ロジスティクス&ビジョンの江島です。

ここ数ヶ月、物流業界の経営者の方々と話していると、ある「共通の話題」が出ることが非常に多くなりました。

それは、「中堅企業への成長」「100億円企業の創出」といった話題です。

ご存じの方も多いと思いますが、現在、国(経済産業省・中小企業庁)は本腰を入れて、中小企業の規模拡大を後押ししています。

「中堅・中小成長投資補助金」など、最大で50億円規模の補助が出るような大型施策も動き出しており、まさに国策として「中小企業の殻を破り、地域を牽引する中堅企業(年商100億規模)になろう」というキャンペーンが展開されているのです。

また、大手コンサルティング会社などが主催するセミナーでも、

「これからは100億円規模のプラットフォーマーしか生き残れない」

「M&Aと大型倉庫建設で、一気にシェアを取ろう」

といった、非常に勇ましいメッセージが発信されています。

経営者として、自社を成長させたいと願うのは当然のことです。

私自身も、クライアント企業が成長し、世の中への影響力を増していく姿を見るのは大好きです。

しかし、長年「現場」という泥臭い場所を見つめ続けてきた人間として、この急速な拡大ブームに対し、一抹の不安……いや、**「危機感」**を感じずにはいられません。

今日は、その「危機感」の正体についてお話しします。

「器」は金で作れても、「中身」は金では作れない

今の物流業界を取り巻く「100億企業化」のセオリーは、概ね以下のようなものです。

  1. M&Aで他社を買収し、時間を買う。
  2. 補助金を活用して、最新鋭の大型物流センターを建てる。
  3. ロボットやシステムを入れて、省人化・高収益化を図る。

この戦略自体は間違いではありません。論理的には正しい。

しかし、ここには**「致命的なタイムラグ」**が見落とされています。

それは、「ハード(建物・設備)ができるスピード」と、「ソフト(人・組織文化)が育つスピード」の違いです。

お金さえあれば、最新鋭の物流センターは1年で建ちます。

M&Aも、条件さえ合えば数ヶ月で調印できます。

しかし、その巨大になったセンターを回す「センター長」を一人前に育てるのに、何年かかるでしょうか?

M&Aで一緒になった、全く異なる文化を持つドライバーさんたちが、「一つのチーム」として機能するまでに、どれほどの対話が必要でしょうか?

3年? 5年?

いいえ、下手をすれば10年かかっても埋まらない溝かもしれません。

私が恐れているのは、この「タイムラグ」を無視したまま急拡大し、

「立派な100億の器(センター)」の中に、まだ「10億レベルの組織力」しか入っていない

という状態に陥る企業が増えることです。

現場からの「悲鳴」は、社長室には届かない

急拡大した物流企業で何が起きるか。私はこれまで、その「成長痛」に苦しむ現場をいくつも見てきました。

  • 最新のマテハン機器を入れたが、現場のリテラシーが追いつかず、結局マンパワーで回してしまい、以前より効率が落ちている。
  • M&Aで規模は倍になったが、古参社員と新参社員の派閥争いが起き、優秀なドライバーから辞めていく。
  • 管理者が不足し、安全教育が行き届かず、大きな事故や誤出荷トラブルが頻発する。

これらはすべて、**「仏(ハード)作って魂(ソフト)入れず」**の結果です。

社長室で決算書を見ているだけでは、売上の数字は順調に増えているように見えるかもしれません。

しかし、現場ではすでに「悲鳴」が上がっているかもしれないのです。

その悲鳴を放置したまま突き進むと、ある日突然、大量離職や重大事故という形で、経営の根幹を揺るがす事態になりかねません。

100億を目指すなら、「100億の現場力」を

誤解していただきたくないのは、私は「規模拡大をするな」「100億を目指すな」と言っているのではありません。

むしろ、志ある物流企業には、ぜひ地域を代表する企業になっていただきたい。

私が申し上げたいのは、

「ハード(M&Aや設備)への投資と同じくらいの熱量と予算を、ソフト(人・教育・現場管理)への投資に向けていますか?」

ということです。

行政のキャンペーンに乗り、補助金を活用して「攻め」に出る。それは素晴らしい経営判断です。

ですが、攻めると同時に、足元の「守り」を固めなければ、城は簡単に崩れます。

次回のブログでは、具体的に**「最新鋭マテハンとM&Aだけでは解決できない、物流現場のリアル」**について、もう少し深掘りしてお伝えしたいと思います。

皆様の会社の「成長」が、砂上の楼閣にならないために。現場視点からの「転ばぬ先の杖」となれば幸いです。

ロジスティクス&ビジョン

江島 裕


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