「見積もりを出しても70%以上が無反応」「営業担当者が平均1年以内に退職」「既存顧客への依存度が80%超」——これらは偶然ではありません。物流業界の営業不振には、顧客管理の属人化から荷主選定の読み違いまで、5つの根深い構造的欠陥が存在します。
本資料では、1,000社以上の物流会社を分析して判明した問題の本質と、今すぐ実践できる改善策を公開します。
はじめに~見逃される盲点
「営業チームを3名体制にしたが、月間の新規受注が2件止まり」 「経験豊富な営業担当者を中途採用したが、6ヶ月で退職」 「100件の見積提出に対して、成約率がわずか3%」
全国の物流会社500社を対象とした調査で明らかになったこれらの課題は、実は営業担当者の能力不足や市場環境の問題ではありません。そこには、創業から続く組織運営の根幹に関わる5つの”構造的な欠陥”が潜んでおり、これらを放置する限り、どれだけ優秀な人材を投入しても同じ結果を繰り返すことになるのです。
受注できないのは個人の能力が問題と結論付けられる
組織に根ざした構造的欠陥ということが分かっていない
システムの再構築が必要なのではなく、戦略がないのが問題
欠陥①:顧客管理が属人化している
営業担当者のデスクトップExcelファイルや手書きメモの置き場が、個人に頼った管理。退職時にはパスワードロックされたファイルと共に貴重な顧客情報も消失する。
Aさんは丁寧な対応、Bさんは価格重視の提案。同じ会社なのに顧客が受ける印象が全く異なり、ブランドイメージが統一されない。
①情報の分散
顧客の配送履歴は運行管理システム、連絡先は営業の個人携帯、過去の見積履歴は担当者PCのローカルフォルダに保存。システム間の連携が一切なく、顧客の全体像が見えない状態
②引継ぎ困難
ベテラン営業マンのAさんが突然退職。20年間築いた大口顧客との関係性、配送ルートの特殊事情、過去のトラブル対応履歴がすべて個人の記憶と共に失われ、売上が30%減少
③対応の不統一
同じ配送遅延でも、A社の営業マンは「申し訳ございません」で済ませ、B社の営業マンは代替案を3つ提示。顧客から「なぜ会社によってこんなに対応が違うのか」とクレームが発生し、信頼失墜の原因に
欠陥②:見積もりが通らない”理由”を把握していない
「他社より20万円高かった」「納期が1週間遅い」という表面的な理由で片付けてしまう。実際は、自社の安全性や実績、柔軟な対応力といった付加価値が全く伝わっていない可能性が高い。
①価格重視の見積提出
運賃と基本サービスのみを記載した簡素な見積書を作成し、自社の強みや付加価値を口頭での説明するも、書面化し提出していない
②不採用の連絡
「検討の結果、今回は見送らせていただきます」という断りに対し、具体的な理由を教えてもらっていない
③推測による理由分析
「きっと価格が高すぎたんだろう」「納期の問題だろう」と憶測で判断し、真の原因を探らない
④値下げ営業の継続
価格を下げることでしか勝負できないと考え、同じ失敗パターンを繰り返す
真の原因:無事故記録15年、24時間対応、専用保険付きなどの差別化要素が顧客に全く伝わっていない。競合他社との違いを数値と具体例で示す必要があります
欠陥③:営業人材が定着しない文化的土壌
「営業=苦行」「現場が一番」「口で商売するな」はもう古い
――経営陣が「汗水流して働け」と言い、営業の成果を「運が良かっただけ」と評価する。平均勤続年数1.2年という現実が、この企業文化の破綻を物語っている。
①営業軽視の風土
「ドライバーや倉庫作業員こそ会社の宝」という名目で、営業職の基本給を現場作業員より2万円低く設定。営業会議では「現場に迷惑をかけるな」が口癖となり、顧客要求への積極的な対応が阻害される
②評価制度の不備
売上目標達成者への賞与は月給の0.5ヶ月分程度。一方で、事故を起こした際の責任は営業が全て負う仕組み。成果の定量的な測定方法も曖昧で、「がんばり」や「人柄」で評価が左右される
③キャリアパスの欠如
営業部長の平均年齢58歳、全員が現場上がり。営業スキルを体系的に学ぶ研修は皆無で、「先輩の背中を見て覚えろ」方式。管理職への昇進条件に「現場経験5年以上」が明記され、純粋な営業キャリアでは出世不可能
欠陥④:”お願い営業”から脱却できていない
「今度うちも使ってよ」「昔からの付き合いだから」――このような紹介頼み、顔パス頼みの営業スタイルでは、デジタル化が進む次世代の荷主企業には全く響かない。現代の購買担当者は、ROI計算、比較検討、エビデンス重視。「課題解決型の対話」への根本的な進化が急務である。
特に、EC物流や冷凍・冷蔵輸送などの成長分野では、従来の「人情営業」では全く通用しない。データドリブンな提案力こそが求められている。
①旧来型営業(限界)
「社長同士が同級生だから」「ゴルフ仲間の紹介で」といった人脈・関係性依存の「お願い営業」。単価交渉で必ず負ける構造。
②現在求められる営業(必須)
「在庫回転率20%向上」「配送コスト15%削減」など、具体的なKPI改善を数値で提案する「価値提供型営業」。
次世代の新規の荷主開拓は、「誰が持ってきた話か」ではなく、「どれだけ具体的な課題解決ができるか」「ROIが明確に示されているか」で判断します。営業資料にグラフとデータは必須です。
欠陥⑤:荷主の選定基準を読み違えている
いまだに「人柄」「関係性」重視と思っていないか? 今の荷主はGoogle検索で3~5社を比較検討し、見積もり依頼フォームから一括資料請求で選ぶ。求められているのは、”A4一枚で伝わる提案書”と”具体的なコスト削減プラン”である。
①旧来の選定基準(思い込み)
- 営業担当者の人柄と熱意
- 創業50年の老舗という安心感
- 年2回のゴルフ接待と懇親会
- 社長同士の個人的な信頼関係
②現代の選定基準(現実)
- 「物流会社 東京→大阪 料金比較」での検索結果
- 配送実績データと事故率0.02%の具体的数値
- 「月間コスト15%削減」の詳細シミュレーション
- 24時間トラッキングシステムの導入実績
結論:構造にメスを入れよ
属人化した顧客管理、見積もり失敗の分析不足、営業人材の定着率の低さ、お願い営業からの脱却不能、荷主選定基準の読み違い。これら5つの構造的欠陥は、現場の努力だけでは解決できません。根本的な変革には、経営者による戦略的なアプローチが必要です。
①経営判断 営業改革への投資決定と責任者の任命
②組織設計 営業プロセスの標準化と役割分担の明確化
③システム導入 CRM・SFA導入ではない、情報の一元管理
④人材育成 提案営業スキルと課題解決能力の体系的教育
⑤現場改善 日々の営業活動の標準化と継続的な改善
構造的な問題の解決には、トップダウンの改革と段階的な実行が不可欠です。次回は具体的な実行ステップを解説します。
今すぐできるアクション
①営業現場の声を聞く(属人化の棚卸し)
営業担当者全員に1対1で30分間のヒアリングを実施。「顧客情報をどこに記録しているか」「引き継ぎ時に何が困るか」「Excel以外のツールを使っているか」を具体的に質問し、属人化の実態を可視化する
②営業資料の棚卸し(刺さる提案があるか)
過去6ヶ月の提案資料20件を抽出し、「自社の強み」「価格」「納期」以外の価値提案があるか分析。顧客の課題(コスト削減、リードタイム短縮、品質向上)に対する具体的な解決策が明記されているか確認する
③営業マンの定着率・退職理由の棚卸し
過去3年間の営業部門の離職率を算出(業界平均25%と比較)。退職者5名以上に電話インタビューを実施し、「教育体制」「評価制度」「職場環境」の3つの観点から退職理由を分析。定着阻害要因を特定する
④荷主の選定理由を”本人に聞いてみる”
既存顧客の決裁者10社に「なぜ弊社を選んだのか」「他社との違いは何か」「今後重視する要素は何か」を電話またはWeb会議で直接ヒアリング。価格以外の選定基準(担当者の対応力、提案力、緊急時対応等)を数値化して把握する
次回予告
『営業システム完全再構築:5つの構造的欠陥を解決する実践的アプローチ』
次回公開日 2025年8月5日(火)午前11時
内容 ①顧客管理システムの蟻地獄化 ②組織改革 ③データ分析による受注確率向上策
対象読者 従業員50名以上の物流会社経営者・営業部門責任者・業務改善担当者
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