― 高校生インターンシップ導入ガイド 第3回 ―
2025.06.07
高校生インターンシップの受け入れは、中小企業にとって単なる地域貢献を超え、企業の活性化や社内教育の機会にもなり得る重要な取り組みです。
しかし、いざ導入してみると「想定以上に準備が大変だった」「現場が対応しきれず混乱した」といった声が少なくありません。
特に物流業界(倉庫業・トラック運送業)においては、安全管理や現場オペレーションの特性上、他業種よりも入念な準備が求められます。
今回は、そうした「実践でつまずかないための導入準備」について、法的な視点やコスト面も含めて具体的にご紹介します。
目次
- 社内理解の形成:成功の第一歩
- 安全管理:物流業に特有の「リスクへの目配り」
- 法的整備:労働基準法・保険・同意書の整備
- 教育機関との連携:信頼と説明責任
- プログラム設計:初日で「心をつかむ」
- 実施体制と担当者:曖昧にしない役割分担
- 予算とコスト設計:経営者目線の現実対策
- 評価と振り返り:次回につながる“資産化”
- おわりに:準備こそが最大のホスピタリティ
- 次回予告
1. 社内理解の形成:成功の第一歩
インターンシップ受け入れの成否は、「社内にどれだけ浸透させたか」にかかっているといっても過言ではありません。
物流業界では、現場が多忙なため「えっ、明日から高校生が来るの?」という状況になりがちです。これを防ぐには、全体朝礼での目的共有、受け入れ資料の配布、簡単なQ&Aミーティングなど、複数の方法で社内に情報を落とし込む必要があります。
✅ 社内共有のポイント:
- インターンの目的:地域との連携、次世代育成、将来採用の布石
- 社員にとっての意義:教えることで業務を再確認、組織の“受け入れ力”を育成
- 注意点の周知:安全確保、言葉遣い、SNS対応など
2. 安全管理:物流業に特有の「リスクへの目配り」
フォークリフト、荷役機械、段差、積載物。物流現場には、高校生にとって“見慣れない危険”があちこちに存在します。
「安全靴・ヘルメットの支給」だけでは不十分です。インターン初日のオリエンテーションで、安全教育専用スライドを使った説明会を実施するなど、徹底した導入対応が必要です。
✅ 安全管理チェックリスト:
- 危険箇所マップの作成と説明
- 実技は“見学中心”からスタートし、段階的に慣らす
- 緊急時の対応フローを共有(体調不良・怪我など)
- 車両接近エリアにはバディ制を導入(常に社員が同行)
3. 法的整備:労働基準法・保険・同意書の整備
高校生インターンは「労働」ではなく「教育活動」です。これを明確にするため、以下の法的な整備が不可欠です。
✅ 法的確認ポイント:
- 受け入れ内容が「労働」に該当しないか(指揮命令系統の整理)
- 高校・保護者との間で「参加同意書」の取得
- 万一の事故に備えた保険(学校の傷害保険 or 企業側の上乗せ保険)
- 労働局との事前協議(地域によって必要な場合あり)
4. 教育機関との連携:信頼と説明責任
学校側が最も懸念するのは、「どんな場所に送り出すのか分からない」という不安です。
まずは、受け入れ予定の現場を写真付きのパンフレットにまとめて提示し、教育担当教員との面談時に「この現場でこのような体験をさせます」と説明しましょう。
その後、事前打ち合わせ・日程調整・フィードバックまで、一連のコミュニケーションをドキュメントベースで残すことで、信頼を獲得できます。
✅ 学校連携のベストプラクティス:
- キャリア教育担当教員との継続的な連絡
- 事前資料の共有(パンフレット・写真・体験内容)
- 安全対策・感染症対策の書面提出
- 実施後のレポート・成果発表を学校に還元
5. プログラム設計:初日で「心をつかむ」
高校生にとって最も不安な時間はインターン初日です。
「ただ見ているだけ」「やることが分からない」と感じると、体験価値が一気に下がります。
これを避けるには、「段階的に慣れていく」設計が有効です。
✅ 3日間インターンプログラム(物流業向け):
日程 | 内容 | 目的 |
---|---|---|
1日目 | 会社説明・安全講習・現場見学 | 環境に慣れさせる |
2日目 | 倉庫内軽作業体験(シール貼り・ピッキング) | 作業参加と達成感 |
3日目 | 日報作成・発表会・修了式 | 成果の可視化と自己肯定感 |
6. 実施体制と担当者:曖昧にしない役割分担
物流現場では“誰が面倒を見るのか”を明確にしないと、担当不在・丸投げ・放置などの事故が起きがちです。
以下のように役割分担を文書化しておくことが安全で円滑な実施に繋がります。
✅ 役割設定(例):
- 総責任者(社長または課長):学校との窓口、全体管理
- 担当社員(2名):現場説明、行動管理
- 安全監督者(1名):注意喚起、巡回確認
7. 予算とコスト設計:経営者目線の現実対策
インターンシップ受け入れには明確なコストが発生します。
✅ 発生しうる費用項目:
- 安全装備:ヘルメット、安全靴、作業服(1人あたり約1万円前後)
- 印刷物:日報、パンフレット、評価シートなど(数千円〜)
- 社員工数:担当者の拘束時間(3日間でのべ8〜12時間)
- 万一の補償保険(追加契約):年間数千円〜
ただし、これらを「広報費」「教育訓練費」「採用活動費」とみなせば、費用対効果は決して低くありません。
8. 評価と振り返り:次回につながる“資産化”
インターンが終了したら、「そのままお疲れさまで終わり」ではなく、記録を残しましょう。
✅ 必須の振り返り要素:
- 高校生アンケート(体験内容/改善点/感想)
- 社員側の所感(接しやすさ/安全配慮の難点)
- 写真や日報のアーカイブ化(社内報・SNS投稿に活用)
- 改善提案書(次回に向けた提案を文書化)
このプロセスを経ることで、“教育ノウハウ”が社内に蓄積されるのです。
9. おわりに:準備こそが最大のホスピタリティ
高校生インターンシップとは、彼らにとって人生で初めての「社会との接点」です。
その体験を感動に変えるか、不安で終わらせてしまうかは、企業側の準備にかかっています。
物流業界においても、受け入れ体制・安全配慮・法的整備・社内の心構えまで、あらゆる角度から設計することが「未来への投資」になります。
10. 次回予告
次回は、いよいよ最終回。
「今すぐ活用できる!無料小冊子の活用法と入手方法」と題して、これまで3回にわたり紹介してきたノウハウを1冊にまとめた無料小冊子をご紹介します。
テンプレートも多数収録し、即・現場で役立てられる内容になっています。どうぞお楽しみに。
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