~商品だけじゃない、眠る資源が利益を圧迫する~
はじめに
「在庫のムダ」と聞くと、どんなイメージが湧くでしょうか?
多くの物流事業者にとって、最初に思い浮かぶのは「荷主から預かった商品や製品が滞留してスペースを圧迫している」姿かもしれません。
確かにそれも立派な在庫のムダですが、実は、もっと根深く、もっと目に見えにくいムダが存在します。
それは――自社の資産(アセット)やリソースが、眠ったまま放置されているムダです。
つまり、倉庫、作業員、トラックなどが稼働せずに滞留している状態こそ、物流会社の「もうひとつの在庫のムダ」なのです。
今回は、この「見えない在庫のムダ」について掘り下げ、どのように気づき、どう対処すべきかを考えていきます。
在庫のムダ、再定義
一般に「在庫」とは、売れていない商品や保管している製品を指します。
しかし、物流会社にとっての在庫とは、「荷主の商品」だけではありません。
もっと広く、「使われていないものすべて」が在庫だと考えるべきです。
- 稼働していない倉庫
- 暇を持て余している作業員
- 空車で待機しているトラック
これらはすべて、物流会社にとって「動いていない=価値を生んでいない=コストを生み続けている」資源です。
つまり、眠った資源=在庫のムダなのです。
特に物流会社の場合、アセットが大きく固定費比率が高いため、この「見えない在庫」が経営をじわじわと圧迫します。
見えていないからこそ、放置されがちになるのです。
見えない在庫1:倉庫スペースのムダ
「万一に備えて」「将来の案件に備えて」――そんな理由で空いている倉庫スペースを抱えていませんか?
しかし、空いているだけの倉庫も、確実にコストを生みます。
- 地代・家賃
- 固定資産税
- 保守点検費用
- 光熱費
稼働率が50%未満の倉庫が常態化しているなら、それは立派な「死蔵在庫」です。
稼働して初めて価値を生み出す倉庫が、眠ったままでは固定費ばかりがかさみます。
【改善のヒント】
- 1坪あたり売上高を算出する
- 坪効率(売上÷坪数)をモニタリングする
- 空間ROI(投下資本利益率)を意識する
経営者や管理者は、「どのスペースが本当に利益を生んでいるか」を数字で可視化し、定期的に“棚卸し”する必要があります。
見えない在庫2:過剰な作業員・人材配置
人手不足が叫ばれる一方で、「とりあえずフル配置しておこう」という心理から、作業員が過剰配置されているケースは珍しくありません。
また、出荷や入荷のピーク時間帯に合わせて、常に余裕を持った人員を置いておくことが“安全策”とされがちですが、それ以外の時間帯では、作業員が「手待ち状態」になっていることもあります。
「作業員の待機時間=コストの垂れ流し」
この構図に無自覚でいると、利益はどんどん圧縮されます。
【改善のヒント】
- 作業別・時間帯別の作業稼働率を計測する
- 作業員1人あたりの処理件数・処理重量を可視化する
- ピークタイムだけの短時間雇用や、フレキシブルなシフト制を導入する
人材を「固定費」と考えるのではなく、需要に応じて「変動費化」する意識が必要です。
見えない在庫3:トラックの不稼働・空車回送
トラックもまた、動いてこそ価値を生む資産です。
しかし、現実には――
- 積み込み待ち
- 配車ミスによる空車移動
- 片道だけ荷物あり、帰りは空車
など、稼働していない時間が膨大に存在しています。
特に「特定顧客専用車両」を抱える場合、案件が少ないときには“持て余し”状態になります。
車両維持費(リース料・税金・保険・車検など)は待ってくれません。
【改善のヒント】
- 1台あたり月間売上を把握する
- 稼働率(走行時間÷保有時間)を算出する
- 帰り荷や相乗り便をマッチングする仕組み(プラットフォーム活用)を検討する
“持つリスク”を減らし、“動かす工夫”をすることが、車両のムダ削減につながります。
まとめ
物流会社にとっての「在庫のムダ」は、荷主の商品に限りません。
- 活用されていない倉庫
- 暇を持て余す作業員
- 動いていないトラック
これらすべてが、「見えない在庫」として利益を圧迫しています。
ポイントは、「動いていないもの=価値を生んでいないもの」と認識すること。
その上で、使う・削る・活かすを意識して、定期的な棚卸しと最適化を進めるべきです。
物流会社の収益性改善は、派手な売上拡大よりも、こうした“地味なムダ取り”の積み重ねにこそ道が開けます。
【次回予告】
次回は、「作業のムダ:なぜその手順?なぜその導線?」をテーマに、現場改善と経営指標をつなぐ視点を深掘りしていきます。
どうぞお楽しみに!
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